今日は親の大恩について、お話したいと思います。

2018/10/30

平成の世の中では、16歳の少年が金属バットでお母さんを殴り殺したとか、50代の男性が年老いた母親を刺し殺したなどという痛ましい事件がニュースに流れます。とんと昔は、日本では、親の恩はよく教えてきました。

姥捨て山とか、悲しい物語もありました。私は戦後生まれですが、あの頃は、まだまだ、両親も、「偉い人にはなるな。立派な人になれ。」「天狗になるな。」と、教えられ、小学校では、「仰げば尊し」を歌い、わが師の恩を歌ったものです。私も、母の教えに、何故三人の子どもを産んだかという理由があるのだと、一人は父の命を継ぐための子、一人は母の命を継ぐための子、もう一人は社会の為に役に立つ子どもなのよと言っていました。

吉田松陰の歌に、「親思う心にまさる親心 今日のおとずれ何と聞くらん」がありますが、この歌は、私が、まだ病院のケースワーカー時代の事です。家族会を結成し、親の集いをしていました。その時に、親の方達は、自分の子供達のことをとても不憫に思い、親がいる間にと、子どもの生末を心配しておられました。私は、不憫がったり、可哀相だと思うことは、却って、差別偏見にあたりますよ。これからの時代は、障がいがあろうがなかろうが、人として生まれてきた我が子は、「生きる意味は幸福なのですよ。」と、話して来ました。自分の人生の主人公は自分だ。だから、お母さんの人生の主人公はお母さんですし、本人(子ども)の人生の主人公は、本人(子ども)です。その時に、「親思う心にまさる親心」のお話が出ました。

父母の恩の重きこと、天の極まりなきが如しと言われています。山より高く海より深い親の恩を10に分けて教えられています。①懐胎守護の恩(かいたいしゅごのおん)~母親が懐妊して守護してくだされた、子を宿し十月十日、無事な出産を念じ続けて下された恩です。どうしたら健康な子供が生まれてくるか「栄養のあるものを食べよう。なるべく悪いものは食べないようにしょう。」「胎教」がいいと聞けば、音楽を聞かせたりします。父親も同じです。母親の胎教に気を配ります。②臨生受苦の恩(りんしょうじゅくのおん)~月満ちて出産の時、陣痛の苦しみに耐えて下された恩です。「陣痛」とは、戦争の時の言葉で、命のやりとりをする場所のことです。男なら、戦争に行けば、そこで命のやり取りをするのですが、女性の一生のうちであれば、この出産の時が、命のやり取りをするときです。そういう意味で、「陣」という漢字が使われていると言われています。間違えば、命を失うかも知れないと言う時なのです。③生子忘憂の恩(しょうじぼうゆうのおん)~子が生まれるとそれまでの一切の苦しみを忘れ喜んでくだされたご恩です。母親は自分を最も苦しめた子どもに対して、たいへん喜んでくだされます。まるで自分が生まれたかのように喜んで、こどもの未来に想いを馳せます。④乳哺養育の恩(にゅうほよういくのおん)~昼夜を問わず乳を与え、成長するまで育てて下された恩です。⑤廻乾就湿の恩(えかんしゅうしつのおん)~おねしょで濡れた処へ自分が移り、暖かい処へ子どもをやり、愛育して下されたご恩です。⑥洗湲不浄の恩(せんかんふじょうのおん)~洗い物を厭(いと)わず洗って下されたご恩です。親の大恩十種のうち、この6番目までは記録にありません。私の知らないところで、私の幸せのために、どんな人が、どんなに苦労してくださっているか分かりません。⑦嚥苦吐甘の恩(えんくとかんのおん)~自分はまずいところや残り物を食べ、子どもには美味しいものを食べさせてくだされたご恩です。自分はどんなに苦労しても、子どもにはそんな苦しい気持ちを持ってほしくありません。自分より子どもを優先して、幸せになってもらいたいと願って下される。⑧為造悪業の恩(いぞうあくごうのおん)~子どもの為に悪業まで造ってくださる。子どものために悪い報いを覚悟して、あえて悪業さえして下されたご恩です。9、遠行億念の恩(おんぎょうおくねんのおん)~遠くに子どもが行くほど、余計に心配し続けて下された恩です。⑩究竟憐愍の恩(くきょうれんみんのおん)~子どもがどんなに高齢になっても、親は思い続けて下されるご恩です。死ぬまで、終生絶える間もなく心配し続けて下されるのです。父母の恩の重きこと、天の極まりなきが如し。これらの、両親の恩の重いことは、天が限りなく広がっているように重いのだと教えられています。仏教では、人間の値打ちは、「知恩・感恩・報恩」、恩を知り、恩を感じ、恩に報いる気持ちがどれくらいあるかということですので、逆に「忘恩・背恩・逆恩」恩を忘れ、恩を踏みにじり、怨(うらみ)にして返す、逆恩の輩(やから)は、大変恐ろしいと言うことです。仏教では、親の恩を踏みにじることは、親殺しの5逆罪であり、大変恐ろしい罪だと教えられています。